幹細胞の役割(その二)

コラム2018.04.19

 胚幹細胞は、胚性幹細胞またはES細胞とも呼ばれ、卵子が精子と受精してできる若い胚(=胚盤胞)の中に存在する内部細胞塊と呼ばれる細胞の集団を取り出してきて、人工的に培養して作られます。胚幹細胞について特筆すべきは、その「多能性」で、分化によって筋肉細胞、皮膚細胞、血液細胞、神経細胞といった身体を構成するあらゆる種類の細胞に成長可能です。このため新聞記事や一般向け解説書では、これを「万能細胞」と呼んでいますが、研究者や専門書は「多能性」という言葉を使っています。 

 もう一つの成体幹細胞は、その名の通り成体の組織内に存在する幹細胞です。これまで骨髄や血流、目の角膜と網膜、肝臓、すい臓、皮膚などで成体幹細胞が発見されています。成体幹細胞も自分の分身を生み出す「自己複製力」と多種多様な細胞を作り出す「多能性」を備えています。成体幹細胞の多能性については、これまでそれぞれの成体幹細胞が存在ないしは所属する生体組織や臓器(たとえば、骨髄、肝臓、すい臓)を構成するあらゆる細胞を作り出すことはできるが、それ以外の生体組織・臓器の細胞へと分化・成長することはできないと考えられていました。すなわち文字通り所属組織の仲間内の細胞には分化するが、 関係のないよその組織の細胞までは作らないとされていました。

 ところが最近になって、骨髄中に存在する造血幹細胞が、血液関連の細胞以外にも神経や 肝臓、筋肉の細胞に分化・成長することがわかってきました。これ以外にも成体幹細胞が所属組織以外の細胞に分化・成長する例が次々と報告されるようになりました。