幹細胞の役割(その一)
再生医療の進化により、毛髪再生の決め手となる毛根幹細胞が、今世紀になって発見されたということは、本誌でも再三述べてきました。そこで今回は幹細胞について基礎的なお話を致します。
全ての生物は、多数の細胞が集まりできており、細胞は生物の最小構成単位であるといえます。人間はその様な細胞が二百種類以上、約六十兆個も集まってできているとされています。
これだけ膨大な数の細胞の集まりですが、元をただせば受精卵というたった一個の細胞が 「分裂」を繰り返してその数を増やす(=増殖)とともに、「分化」によって身体を形づくる様々な種類の細胞に変身・成長した結果です。このような多種多様な細胞の中に、「幹細胞」と呼ばれる親玉的な特殊な細胞が存在します。
幹細胞は、英語でstem cell と言いますが、stem は樹木の「幹」のことです。幹から多くの枝が分かれて一本の大きな木に成長するように、幹細胞も身体の組織や臓器を形づくる様々な種類の細胞に分化(=変身)します。このように、単にある特定の細胞に限定されずに、いろいろな種類の細胞に分化できる能力は「多能性」と呼ばれ、これが幹細胞の大きな特色です。
幹細胞のもう一つの大きな特色は、分裂したときに自分とまったく同じ性質・能力を持った細胞を次々に作り出すことができることです。いわば自分とそっくりの分身を生み出す能力でこれは「自己複製力」と呼ばれます。ある一個の幹細胞が衰えて能力を失っても-、それまでに自己複製により作り出されている分身の幹細胞が代わって仕事をしてくれます。
以上のように、幹細胞は自分の分身のような細胞を生み出す自己複製能力と、多種多様な細胞を生み出す多能性を備えた親玉のような細胞ですが、このユニークな存在の幹細胞には、「胚幹細胞」と「成体幹細胞」の二種類が知られています。これについては次回にお話致します。